『 初春の・・・ 』

 

 

 

 

どうしてこんなコトになったのか・・・

それは誰にも全くわからなかった。

 

コトに直接向き合うハメになった4人はもとより、

固唾を呑んで見守っている外野・・・・ク−ファンから乗り出している当家の

ス−パ−ベイビ−にも ・・・ さっぱりわからなかった。

 

・・・ しかし。

 

モノの弾みかコトの成り行きか。

・・・つまりはそういうコトに なってしまったのである。

 

鋭い笛の音とともに、ギルモア博士の重々しい声が

荘重に<始まり>を告げた。

 

「 ワンセット・マッチ。 和泉・ピュンマ組 対 アルヌール・島村組 」

 

ひゅ・・・と球が宙にあがり 和泉 ジュンの強烈なサ−ブが相手のコ−トへと

打ち込まれた。

 

かっつ・・・・・・ん ・・・・

 

鋭くコ−トに突き刺さる・・・はずの<球>は 新春の空にふわふわと浮き上がり

ゆるゆると舞い落ちてきた。

 

「 ・・・ハイっ 」

前衛を務めるアルヌ−ル嬢は 腰をいれて構えた。

 

 

 

「 おめでとう ございま〜す。 」

ギルモア邸の玄関から 元気のいい声がひびいてきた。

「 あ、いらしたわ。 ・・・・ねえ、ジョ−。 可笑しくない? 

 帯はちゃんと結べてる ? 」

フランソワ−ズは 心配そうな顔をしてジョ−の前でくるりと回ってみせた。

朱鷺色の大振袖が 華やかにその袂を広げる。

鮮やかな色彩がリビングをなおさらぱっと明るくした。

「 ・・・うん、とってもよく似合ってるよ! すごく・・・ 素敵だ・・・ 」

「 もう ・・・! そんなんじゃなくて。 ねえ、帯は着崩れてない? 」

にこにこと自分を眺めているだけのジョ−に フランソワ−ズはちょっとだけ膨れてみせた。

「 ごめん、ごめん。 でもさ〜本当に綺麗なんだもの。 うん、帯はきちんと

 結べてるよ。 きみこそ、苦しくないの? 」

「 あら、全然。 背筋がきりっと伸びていい気持ち。 それにね とても温かいのよ。

 絹ってすごい生地ねえ。 」

両の袂を重ね合わせてみせた姿はお人形よりも愛らしい。

ジョ−は溜息を殺すのに苦心してしまった。

「 ・・・ 玄関、彼女が来たんじゃないかな・・・? 」

にこにこと二人をみていた博士が 遠慮がちに口をはさんだ。

「 あ! いけない〜  ・・・ は〜い、ただ今・・・・ 」

ぱこぱことスリッパを鳴らして フランソワ−ズは小走りに玄関に向かった。

 

「 あ・・・ 裾を気をつけて・・・・ 踏んづけないように・・・・ 」

袂を翻して駆けてゆく彼女の後姿にも ジョ−はじっと見入っていた。

亜麻色の髪をきりっと結い上げ、白い襟足が鮮明に彼の目に映る。

 

 ー なんて・・・ 素敵なんだ・・・! 

 

ジョ−はひとりになって存分に満足の溜息を深く・深く吐き出した。

こんな素晴らしいひとが 自分の傍らにいてくれるなんて・・・まだ時々信じられない。

ふ・・・っとジョ−の目裏に昨夜自分の腕の中で眺めた彼女の白い肢体が浮かびあがり

彼は慌てて頭を振った。

「 ふふふ・・・・ 目の保養じゃのう。 ジョ−、お前へのお年玉だな。 」

「 ・・・え、いやあ・・・そのぅ・・・ 」

博士に突っ込まれ ジョ−はなおさら赤くなってアタマをかいた。

 

「 お邪魔します〜 ・・・ あけましておめでとうございます。 」

華やかな空気をまとって いまひとりの少女が入ってきた。

小麦色の肌がつやつやと輝き、全身から元気なパワ−をあふれさせている。

「 あ・・・ あけましておめでとう。 ようこそ・・・ どうぞ? 」

「 あけましておめでとう。 おお、綺麗じゃな。 よくお似合いじゃよ。 」

博士の賞賛とジョ−のびっくりした眼差しを受け、和泉 ジュンは照れくさそうに笑った。

「 えへへ・・・ありがとうございます。 お正月くらいはヤマトナデシコしようかな・・って。 」

「 やっぱり、本場の方はしっくりと着こなすのね。 さすがだわ。 」

赤を基調にした振袖が 彼女の溌剌とした表情を引き立たせている。

「 あら〜 キモノなんて、お正月くらいしか着ないのよ、日本人でも。 

 フランソワ−ズこそ、すごく素敵! 日本人だってこんなに似合う人、珍しいわ。 」

「 まあ・・・ありがとう。 嬉しいわ。 」

娘たちの着物姿に、博士は眼を細めっぱなしである。

「 うんうん・・・ 二人ともちがった魅力でとりどりに素晴らしいなあ。

 この国の正月は 奥ゆかしくていいのう。 なあ、ジョ−? 」

「 ・・・え ・・・あ? あ、はい・・・ 」

ぼ〜っと二人に見とれていたジョ−は 博士にいきなり話をふられ大いに焦っていた。

そんな彼の様子に 皆は声を上げて笑った。

 

「 この辺りは風が強いから、凧揚げなんかにはぴったりですよね? 」

「 凧かぁ・・・ チビのころ、一回くらいやっただけだな。 」

「 伝統的な遊びってあまりやりませんものね。 カルタとか羽根突きとか。」

「 あら、そうなの? わたし、一回<はねつき>ってやってみたいの。

 羽根っていうんだから、バトミントンみたいな遊びでしょう? 」

お茶を淹れる手をやすめ、フランソワ−ズが地元組に訊ねた。

「 バトミントン? まあ、確かに羽根を使うから似てるかな。

 でも、もっとの〜んびりしてるわね。 」

「 ふうん・・・ ぼくはテレビかなんかで見ただけで・・・やったことはないな。 」

「 一応、女の子向けの遊びみたいだしね。 あれは着物着て、ゆるゆるやるのが

 いいんじゃない? 」

「 着物着て? まあ・・・・ ね! やりましょうか。 」

フランソワ−ズが目を輝かせて提案した。

「 ・・・・そうねえ。 せっかく晴れ着を着ているし、本格的にやりますか。」

「 あら〜 面白そうね。 ちょっといろいろ食べすぎたから いい運動かも。 」

「 ふふふ・・・ アナタでも食べ過ぎるの? お正月太りするわよ。 」

「 え、やだ! ジュン、是非やりましょう? たしかね、道具はあるはずよ、ウチのロフトに。 」

「 へえ? 今時珍しいわね。 」

「 ウチには<珍しいモノ好き>が何人もいてね。 見慣れないモノに出会うと

 すぐに買ってくる困ったサンがいるわけ。 」

「 ふうん。 ま、それじゃ・・・今日は伝統的に優雅にすごしましょうか。」

「 では。 よろしくお願いします。 」

「 こちらこそ・・・・ 」

三つ指ついて丁寧にお辞儀をしたフランソワ−ズに ジュンの方が

あわててぴょこり、とアタマを下げた。

 

 

「 は〜い・・・ では、いきま〜す♪ 」

「 は〜い。 」

  ・・・・ かつ 〜〜 ん

風も弱く 穏やかに晴れ上がった空に追羽根が舞い上がる。

派手な色合いが 真っ青な空をバックによく映る。

 

ふわり、と放物線を描いて落ちる羽根を フランソワ−ズが羽子板で掬い打つ。

はらり、と袂が翻り大輪の芍薬が花開いたような景色である。

 

  ・・・ かつ ・・・・ ん

 

「 おかえし〜〜 」

今度は緋色の牡丹が華麗に咲き誇る。

 

「 ・・・ わ ・・・ これって・・・」

「 ははは・・・ こりゃ〜目の保養というか、目の毒じゃのう。

 ジョ−、大丈夫か。 」

真っ赤になって俯いたりちらちら視線をもどしたり。

溜息を詰め込んで さらにまた赤くなっているジョ−に 博士は腹をゆすって笑った。

「 ・・・ はあ。 なんってか・・・ すご ・・・ 」

「 ふふふ・・・ 剥き付けに露出するよりも余程刺激が強いのう。

 和服とはなんとも艶かしいもんじゃ。 日本の美は・・・奥が深いなあ。 」

博士は大人の余裕で楽しいんでいる風だが、ジョ−はひたすらどぎまぎする一方だった。

 

羽子板を構えるたびに 白い腕が朱鷺色の、紅色の 袂から零れ出る。

その色彩のコントラストに目を奪われ、細い腕の白さが印象的である。

駆け寄るとちいさく翻る裾からは 足袋に区切られた白い足首がちらちらと見える。

ほんの一部分なのに、それはなんと魅力的なことか・・・。

ジョ−は まったくの裸体を眺めるよりももっと深い衝撃を受けた。

 

「 ぼくは ・・・ この国に生まれ育ったけど。 こんな魅力は・・・ 初めて知りました。 」

はぁ〜と 盛大に息を吐き、ジョ−はさらにさらに赤くなっていた。

 

そんな男性陣の<内情>を知る由も無く、晴れ着姿の娘たちは羽根突きに興じていた。

ふわふわ・ひらひら舞いあがり舞い落ちる派手な色彩の羽根は

のんびりと打ち交わすにはぴったりの<球>なのかもしれない。

 

「 ・・・あ ・・・ えいっ!  あ〜 ごめんなさぁい・・・ジュン 」

たまたま袂が手首に絡まってしまい、フランソワ−ズは仕方なく横打ちのように

羽子板をつかった。

 

 ・・・ カッ ! 

 

思いがけない速さで 追羽根は鋭い直線を描きジュンの許に飛んでいった。

「 ・・・ わ? 」

 

 コンっ!

 

反射的に構え直したジュンは 追羽根の黒い球を的確に打ち返した。

「 あ! 悪い〜 つい・・・ ごめん〜〜 」

 

・・・ なんとか言葉の遣り取りがあったのはここまでだった。

それからは 砂の多い地を踏みしめる草履の音と羽子板が追羽根を打つ、

鋭い音だけが・・・ ギルモア邸の前庭に響いていた。

 

「 ちょ・・・ どうしちゃったんだよ、二人とも・・? 」

いつになく真剣なム−ドに ジョ−が驚いて口を挟んだ。

 

「 黙ってて! ジョ−さんっ 」

「 ジョ−! うるさいわっ! 」

 

二人の女性から同時に叱責が激しくサイボ−グ009を襲った。

「 ・・・ ハイ ・・・ 」

いきなりパンチをくらった子犬みたいに、ジョ−はすごすごと引き返した。

・・・なんか、すご・・・。

和泉 ジュンはともかく、フランソワ−ズのあんな真剣な顔を普通の日々で見るのは

初めて・・・ だったかもしれない。

もしかして。 戦場でよりも・・・・ コワいかも。

ジョ−は固唾を呑んで空を切って飛び交う追羽根の行方を見つめていた。

 

 

和泉 ジュン。

ある夏、海で知り合ってフランソワ−ズと仲良くなった。

当時、彼女はジュニアのテニスプレイヤ−としてかなり名の知れた存在だった。

勿論そんなことは親しくなってからわかったのだが。

ちょっとした怪我のあと、復帰に悩んでいた彼女にフランソワ−ズが手を貸して以来、

娘達の仲はより緊密になったようだ。

 

「 彼女ってさっぱりしてるし、あんまり他人の<事情>には興味がないのよ。 」

ジュンが足繁くギルモア邸にフランソワ−ズを訪ねてくるようになった時

ちょっと心配したジョ−に、フランソワ−ズが言った。

「 だからね・・・ わたし達の<事情>とかはどうでもいいみたい。

 安心して大丈夫よ、ジョ−。 」

「 そうなんだ。 それなら ・・・ いいけど。 」

「 ふふふ・・・ でもネ。 あら、同棲してるのね?って・・・すぐに言われちゃった。 」

「 ど・・・同棲って・・・ その・・・ 」

「 や〜だ、いいじゃない? 確かに一緒に暮らしてるわ、って応えておいたの。 」

フランソワ−ズはくすくす笑って 一人赤くなっているジョ−の首に腕を絡めた。

「 あなたは ・・・ わたしの なに? シマムラ・ジョ−さん。 」

「 な・・・なに・・・ なにって・・・・ 」

「 恋人よ、って言って欲しかった?」

「 ・・・ だめ? 」

「 もう・・・ジョ−には敵わないわね。 大丈夫よ、彼女察しはいいほうだから

 ちゃ〜んとわたし達のこと、わかってくれてるわ。 」

「 うん・・・ 」

 

ジョ−のそんな心配も、自然消滅した。

ジュニアの全国タイトルを取り、やがてプロに転向したジュンは 猛烈に多忙の身となった。

海外遠征も増えたし、以前のように足繁くこの邸を訪れることもできなくなった。

「 せっかく友達ができたのにね。 」

「 う〜ん、でも、しょうがないわ。 ほら、ちゃんと手紙はくれるし、メ−ルも。 」

フランソワ−ズとは相変わらず仲が良いらしかったし、たまの休暇には

ジュンは必ず、ギルモア邸に訪ねてきていた。

 

 

「 仲がいいって信じていたんだけど・・・ 」

ジョ−は以前、フランソワ−ズがジュンを引っ叩いていた事を思い出していた。

結局、あれは<目的>のための特訓だった・・・と彼女は打ち明けていたのだが。

「 なんだか・・・? 」

 

「 ただいま〜 あれ、何やってるのかい? テニス? 」

「 あ〜 お帰り ピュンマ。 」

身を硬くして観戦しているジョ−の背後から のんびりした声がかかった。

「 店は開いていた? 必要なものは手に入ったかい。」

「 うん。 さすが天下のアキバだねぇ。 もう・・・すごい人出だったけど、なんとか。 」

「 そうなんだ、よかった。 」

ピュンマは珍しく正月をここ、ギルモア邸ですごしていたが、その週末には帰国予定だという。

「 ありがとう、ジョ−。 ところで、アレってなんなのさ。 

 ・・・・ひゃ〜〜〜 えらく・・・艶かしいね ・・・ わお。 」

生真面目なピュンマも 裾を乱し袂を振り回して奮戦している

<おんなの闘い>に 目を見張っている。

「 なにがなんだか・・・ぼくには・・・さっぱり。 」

「 ・・・ふうん? 」

 

  ・・・ かんっ!

 

「 ・・・あっ!! 」

ざざっと砂地を滑る音と悲鳴が一緒に聞こえ・・・

ぴゅん・・・っと追羽根が勢い良くフランソワ−ズの足元の地に落ちた。

 

「 はい、ゲ−ム・セット ! それまで〜 」

息を弾ませて、じっと見つめあっている二人の娘の間にピュンマがぽん、飛び込んだ。

「 ・・・あ、 ああ・・・ アタシったら 」

「 あ・・・やだ、草履が・・・ 」

「 フラン、大丈夫? その・・・かわった靴、壊れた? 」

ピュンマは膝を付いてしまったフランソワ−ズに手を差し伸べた。

 

「 ごめんね・・・ なんだか急に・・・ ぱっと羽根が飛んで来たらなんだか本能的に ・・・ 」

「 わたしも。 どうかしてたかも・・・ 着物、大丈夫? 」

「 フランソワ−ズこそ・・・ 汚さなかった? 草履は? 」

やっと我にかえったプレイヤ−たちは 互いの身を気遣いあっている。

「 二人とも・・・なんだか怖い顔してすごい勢いでコレをうちあってるしさ。

 ジョ−はジョ−で・・・固まってるし。 ちょっと驚いたよ。 」

「 ピュンマ・・・ ごめんなさい。 」

「 ピュンマさん、お久し振り・・・。 」

 

乱れた裾を襟元を整え、ほつれた髪を直し・・・ 二人はまた<ヤマトナデシコ>にもどった。

「 え〜 羽根突き? ふうん・・・これ、この板で打つのか。 」

初めてみる異国の玩具を ピュンマは面白そうに手に取った。

「 テニスと卓球の合いの子みたいだね。 これは・・・植物の種かい。 」

カツン、カツン・・・と彼は巧みに板の上で追羽根を躍らせる。

「 へえ・・・ 上手だね、ピュンマ。 ぼくはどうも・・・」

横で眺めていたジョ−が、感心した面持ちで彼の手元を見つめている。

「 そんなに難しくはないよ、ジョ−。 ・・・ああ、この羽根の広げ具合で球の速度が

 変るんだね・・・ ふうん・・・。 ・・・ ほら、これならゆっくり・のんびり。 」

「 え、わ・・・・ 」

カツン・・・とピュンマが打ち上げた追羽根は 先ほどとは比べ物にならないほど

ふんわり・ゆるゆると放物線を描いてジョ−の手元に落ちてきた。

 

 ・・・ カッツン 〜〜

 

ジョ−がなんとか掬いあげ、打ち上げた。

「 うまい、うまい。 それ、もう一丁〜〜 」

「 わ・・・ ああ、この速さなら・・・なんとか。 」

オトコ二人の間を 極彩色の羽根が山なりになってのんび〜り宙を往復している。

 

「 ははは・・・ ウチはお嬢さん方は剛速球でオトコどもはのんびり、か・・・

 ま、それもよかろうて。 」

博士が大笑いをしている。

「 ねえ。 せっかく4人打ち手がいるんだから・・・ ミックス、やらない? 」

「 ミックス・・? ああ、男女ペアのゲ−ムね? 」

「 そう。 わたし♪ ピュンマさんと組みたいな〜 実はず〜っとファンなの。 」

「 あらら・・・ ジュン、ちっとも知らなかったわ。 」

「 えへへへ・・・ 何回かコ−トでね。 彼のアドヴァイスは凄いのよ、

 いろいろデ−タを解析してくれるからすごく参考になるの。 」

「 彼らしいわね。 ・・・ そうだわ! お正月ですものね・・・ 」

「 ・・・え? ああ、いいかも〜〜 」

娘たちはなにやらこそこそ耳打ちしあって くすくす笑っていた。

 

 

「 え・・・ ぼくらも? 」

「 へえ? 」

休憩にお茶を・・・とリビングに引っ張って行かれたオトコどもは

そこで目を見張った。

「 そうなの。 お正月でしょ、羽根突きでしょ。 だから・・・ 」

「 ミックスしましょ。 これは・・・ ユニフォ−ム 」

フランソワ−ズだけではなく、ジュンもイタズラっぽい目つきでくっくっ・・と笑っている。

二人が差し出したのは ・・・ 着物に袴。 色彩からどう見ても男モノだ。

「 これ・・・着るの? ・・・ぼく、和服って着たことないんだ。 」

「 ふうん ・・・ ボタンもファスナ−もないんだね。 」

 

「 ・・・本当になんでもあるのねえ、ここのお家には。 」

「 言ったでしょ? 珍しいモノがあるとやたらと買い込む困ったクンがいるって。

 今年は幸い、ご本人は来てないけど。 」

「 ・・・物置きが広くてよかったわね・・・。 」

「 ま、ね。 とにかく着る機会があって結構なことだわ。

 仕舞いっぱなしで終わったらキモノが可哀相だし。 」

「 そうね。 たとえ・・・どんな着手であっても、ね。 」

コスプレか仮装行列か・・・ オトコどもは見慣れない和服を拡げわいわい言っている。

そんな騒ぎの影で女性陣はひそひそと耳打ちをしあっていた。

 

「 ジョ−、基本は浴衣と同じじゃよ。 ああ、ピュンマ、前は<左前>じゃ。

 懐にすぐに右手が入るよう・・・と考えてごらん。 」

「 あ・・・そうか。 博士、詳しいですね〜 」

意外にもてきぱきと着付けを指導するギルモア博士に ジョ−もピュンマも驚きである。

「 ふふん。 こちらに来てからコズミくんに教わっての。 着慣れてしまうと

 とても楽じゃし。 なによりこの国の気候にあっとる。 」

「 そういえば、博士は夏なんかほとんど浴衣がけでしたね。 

 ・・・あれ? この ・・・ 袴は・・・? 」

「 それはな・・・ 」

ほとんど博士に着付けをしてもらい、なんとか 見た目・日本男児 ができあがった。

 

「 どうじゃね? お嬢さんがた。 」

博士が得意顔でジョ−とピュンマのお披露目である。

「 あら〜 ・・・ 素敵よ、素敵! なんだか・・・ 」

くくく・・・っとジュンが肩を震わせ 真っ赤になって目をぱちぱちさせている。

「 ・・・ ま・・・ 二人とも・・・ 別人みたい。 」

絶句していたフランソワ−ズはなんとか言葉を捻りだした。

 

 − なんだか・・・七五三のボクみたい・・・

 − 落語家のタマゴだわ〜 こりゃ・・・

 

そんな女性陣の素直な感想など知る由もなく、似非・日本男児はいい気分になっていた。

「 素敵って・・・そうかな。 これ・・・普通に歩ける・・? 」

ジョ−がおそるおそる袴を摘まんで歩き出す。

「 なんだか気になる反応だけど。 ・・・ふうん、わかったよ、ジョ−。

 脚をばっと出した方がいいみたいだ。 うん、あんがい動きやすいね。 」

何事もカンのいいピュンマはすぐに裾裁きのコツを飲み込んだらしい。

結構身軽に動きだした。

「 え〜 ・・・ すごいな、ピュンマ。 」

ジョ−は合い変わらず袴の裾を踏んづけたり草履に蹴躓いたり・・・難航していた。

 

「 さ。 それではゲ−ムをしましょ。 」

「 こちらは準備オッケ−よ。 」

「 え〜 本気かい?  ・・・あ。 わあ〜〜・・・ 」

「 ・・・ひょう〜 なんだか・・・りりしいねえ・・・ 」

颯爽と現れた女性達に ジョ−もピュンマも一瞬棒立ちとなった。

 

きりりと白鉢巻を額に結び

長い袂はタスキですっきりと引き絞り

ヤマトナデシコ達は 艶然と微笑んでいた。

 

 − こりゃ・・・ 負けるかも。

 − うわ〜 ・・・ 目の毒だよ、これって・・・

 

もやもやしたオトコどもの溜息を含みつつ、<羽子板マッチ>は始まったのだった。

 

 

 

「 ・・・あっ ごめん、フラン・・・! 」

「 あああ・・・ ジュン、頼む〜〜〜 」

「 えい・・・っ あれ??  あ・・・フラン、ありがとう! 」

「 よ・・・っ? あれ、あれ? どうしてそんなトコに行くんだよ〜〜 ジュン、ごめ〜ん 」

しばらくはそんな声ばかりが響いていた。

 

「 ジョ−! 焦らないで。 わたしがいるわ。 きっと守るから! 」

「 大丈夫、よく球を見て。 ピュンマさん、冷静になって。 」

 

次第に女性陣がバックを守る体制となり、前衛・後衛が入れ替わった。

ジュンとフランソワ−ズが拾いまくる球ならぬ羽根を、ジョ−とピュンマが

覚束ない手つきで相手方に打ち込む。

とうぜん ミスをして失点するのも ・・・ 男性陣である。

 

 − ・・・ああ ワンセット・マッチで よかった!!

 − う〜ん・・・ 何でも計算通りには行かないんだなぁ・・・!

 

  ・・・・ カツッ !!!

 

そんな二人のぼやきを見透かすかのように、ジュンの一打が鮮やかに決まった。

 

「「 すげぇ〜〜 パッシング・ショットを決めたよ〜 」」

 

 − フランって・・・実は案外ってか本当は凄く<強い>んじゃないかな・・・

 − 冷静なのはジュンの方だったんだ、いつも。 僕の方が浮き足だってたな・・・

 

ふう〜〜〜と 心に溜息を吐きつつ、ジョ−とピュンマは改めて

お互いのパ−トナ−の勇姿に見惚れていた。

 

 

< 博士? 博士ガ一番楽シンデイルンジャナイノ? >

いつのまにか クーファンごと見物に出てきたイワンがジャッジ席のギルモア博士に

語りかける。

「 ははは・・・そうじゃの。 」

< ア・・・マタ、みすッタヨ、じょ−。 彼ハ案外運動神経ガ鈍イノカナ? >

「 ・・・というより、ジョ−は裾裁きが下手くそなんじゃな。 」

< フウン・・・ ア! ふらんそわーずノふぉ-むハ綺麗ダネ。 

 踊ッテルミタイダヨ。 >

「 ふぉふぉふぉ・・・ お蝶夫人、というところかの。 」

< ・・・・? ナニソレ?  ア〜 ぴゅんまハ大分慣レテ来タネ。 彼ハ器用ダカラ >

「 適応力があるからの、彼は。 」

< 博士、勝負ヲ決メルノ? コレハ今後ノ彼等ヘノ課題ニスルノ? >

「 ・・・まあ、よいよい。 ただの遊びでいいじゃないか。

 他愛もないコトで真剣勝負ってのもまた楽しいもんじゃ。

 ま・・・ この初春に平和に、すべて世は事もなし・・・というところかの。 」

 

 

その年の元旦、ギルモア邸の中庭では夕闇せまるまで

優雅な羽根の音が響いていたという。

 

 

*****    Fin.   *****

Last updated: 01,03,2006.                          index

 

 

***   言い訳   by   ばちるど  ***

な〜んてコトないお正月風景です。

メンバ−の和服姿が書きたかったのと、なんとなく消化不良気味の

<和泉ジュン>さんを登場させたかったのでした。